H27.6.24





■ダービーが終了した馬産地で

 馬に携わる全ての人々にとって、ダービーが終わると年の半分が終了した気分になるのではないだろうか。ドゥラメンテが圧勝し2冠を制した今年のダービーは、新たなスーパースターの誕生を予感させた瞬間でもあった。ドゥラメンテの、他馬を圧倒する超越した走りを見て、M.デムーロ騎手の日本語での流暢な勝利インタビューを聞いて、私はその感を強くした。久々に好景気に沸く日本経済(私自身は蚊帳の外だが)のもと、競馬人気も右肩上がりになっていくことを信じたい。
 馬産地の出産シーズンは、ほぼ終焉を迎え、種付けの方も終盤に差し掛かりつつある。一時は1
日30頭近くの繁殖牝馬が来場していたブリーダーズスタリオンステーションも6月に入り、17、18頭の種付け数に落ち着いてきた。うわべだけを見ると、このままフェイドアウトしそうな感じにも見えるが、実はスタリオンステーションにとってはここからが胸突き八丁の最後の登り坂なのである。
 この時期、生産者の皆さんの顔にも少々焦りの色が見て取れる。繁殖牝馬をきちんと受胎させるか、させないかでは、翌年以降の牧場経営にも大きく関わってくることだけに、そのお気持ちも痛いほどわかる。受胎確認できないいらだちを「おたくのあの種馬、止まりはどうなんだ?」と、みな判で押したように同じ質問をぶつけてこられるのだが、正直なところ種牡馬に全く問題ないケースが多いので、こちらも答えに窮してしまう。人馬一体となっての種付け業務であるが、ここが最後のひと踏ん張りでもあるし、事故なく高受胎率を記録して無事シーズンが終了して欲しいというのが偽らざる気持ちである。
 一方、夜間放牧がメインの1歳馬にとって、おそらく馬の一生涯の中でこれほど幸せな時期はないのではないだろうか。広い放牧地に仲間と一緒に長時間放牧され、のんびり草を食み、相撲を取り、またある時は全頭横たわって爆睡しているさまは、本当に心が和む。間もなく育成・馴致も始まり、競走馬として基礎的な訓練が開始されるが、それまでの、束の間の夏休みといった感じだろうか。
 静内東部や三石地区に行くと、黒毛和牛とサラブレッドの両方を飼育している生産者を結構目にする。地元農協の指導もあって、軽種馬農家にとっては比較的参入しやすい肉牛飼育の複合経営だが、そのためにサラブレッドを放牧する牧区が大変手狭になっているのを見るにつけ、虻蜂取らずにならなければよいがと危惧するのは私だけだろうか。但し、和牛飼育に関しては、繊細なサラブレッドを飼っていた軽種馬農家にアドバンテージもあるようで、市場で結構高い値で売っている方も多いと聞く。粗放的な飼育方法ではなく、手塩にかけて育てる軽種馬流が、市場での評価を高いものにしているのであれば、それもまた良しと言えるだろう。
但し、軽種馬生産と和牛飼育の二刀流はそうたやすいものではない。馬産地の勢力分布が西高東低と言われて久しいが、企業努力で世界レベルの馬づくりに邁進する生産界トップグループがある一方で、中小牧場が主体である日高地域の停滞が目に付く。当然大多数の生産者が各々の力量の中で、懸命な努力は続けているのだが……。
 ダービーの翌日、スタリオンステーションで私にドゥラメンテの父親の名を尋ねた生産者の方がいらっしゃったが、いったい何のためにサラブレッド作りに励んでいるのか聞きたい気持ちになった。
遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。