H25.10.28





■馬産地に根付く「構造不況」 - 高い売却率 低迷する平均価格

 安部晋三総理が打ち出した経済総合政策「アベノミクス」。その成果か、内閣府発表のGDP改定値も上方修正されて3期連続のプラス成長を記録し、日銀の短観も持続的な景気回復を裏付けるものだった。
 日高に住んでいると、私自身はそういった世の中の経済の動きとは無関係な立ち位置にいることを日頃感じているのだが、この馬産地の景気は実際のところ、どうなのだろうか。最近行われた軽種馬市場の動きなどから、景気の動向をウォッチしてみたい。

 今年のセールの結果を見る限り、当協会のセレクトセールやHBAのセレクションセールといった最上級馬が上場されるセールは好調だったと断言できるだろう。
 特にセレクトセールは、過去最高の売却総額123億5293万円(税込、2006年に3日間開催で記録した数字を2日間開催で更新)を達成したのに加え、トータルの売却率もこれまでで最高の80・9%を記録。上場馬の質や過去の実績もさることながら、積極的な誘致活動が効果を上げて、国内外の有力バイヤーが参加する世界的なセールに成長したことが、驚異的ともいえるこの数字を叩き出した大きな要因だろう。
 今回のセール結果は、数字的に低迷したリーマン・ショック後の2009年(総売上約80億円・税込)、2010年(同約68億円・税込)の実績を大きく上回ることになったわけだが、折しも日銀短観が「リーマン・ショック後、最高の業況判断指数(大企業・製造業)」と発表したことと軌を一にしているようにも見えて、「セレクトセールの結果=日銀短観」とたとえたら書き過ぎになるだろうか。しかし、我が国のサラブレッド・オークションのなかでは短観と牽連性が一番あるのは間違いないところだろう。
 セレクトセールに続いて8月に開催されたHBAサマーセールはどうだったのか。中堅級の馬が千頭以上も上場される日本屈指の大市場だが、売却率は55%と前年比で7%上昇したものの、1頭あたりの単価は410万円と前年より19万円の下落となって、上場した生産牧場の方々にとっては満足のいく結果とは言い難かったのではないか。
 10年前と比べると、598万円だった平均価格が今年は410万円とほぼ3分の2まで下落したのに対し、売却率は一気に上昇して22%から55%と2・5倍の数字を記録している。低迷する平均価格と大幅に向上した売却率、なんともアンバランスなこの結果をどう捉えたらよいのだろうか。
 かつて馬産地では、売買された馬の6割の行き先が地方競馬だったが、競馬場の廃止や賞金減額が続くなかで、行き先のなくなった地方行きの馬が増加した。必然的にこれらの馬も中央競馬を目指すことになり、現在中央競馬では、在籍頭数の極端な飽和状態が続いている。
 地方競馬で愛馬を使う馬主の方々も、セールで馬を探す場合、その馬を走らせる競馬場の賞金レベルにあった価格帯の馬を探すわけで、中堅市場のサマーセールやオータムセールは当然ながら買い手に有利な市場となって、馬の価格は上がらない。
 特にオータムセールなどは、上場者側に一刻も早く換金したい意識が強く、お台を下げて売却する例が続出する。結果としてこれらの市場は、売却率は高いものの価格は昭和40年台と変わらずといったことになってしまい、いわば「構造不況」の状況を呈している。私自身、感覚的に思うのだが、中堅級にあたるこのレベルの価格が上昇しない限り、日高の中小牧場の経営は一向に楽にならないと思う。
 それでも、ここ数年でやや産地の景気回復を実感できる点もある。種付料の回収状況がそのひとつだ。「受胎確認後9月末支払」という条件で種付した種牡馬の種付料の集金時期がまさに今なのだが、私の会社でいえば、昨年同時期より明らかに入金件数が増えている。馬主からの入金も多いので、すべてが馬産地の景気を反映した数字とはいえないが、ざっと計算したところ昨年対比で入金件数は11%の増加となっている。個々の生産者で多少のデコボコがあるものの、セールで生産馬をうまく販売できて、それなりの売上げを確保した牧場も例年以上に多いのかもしれない。
 この稿が出る頃には10月上旬に開催されるHBAオータムセールの結果も出ているはずだ。私の分析が良い意味で外れてくれることを願っているが、果たしてどうだろうか。
遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。