H21.8.27




■上場馬全頭売却の背景 − 日高の中堅2牧場に聞く
  
 本年のセレクトセールは、 初日の 「1歳市場」 は昨年以上だったものの、 2日目以降の 「当歳市場」 は売り手にとってはかなりハードなセリとなった。
 日本経済が大きく落ち込むなか、 今回のセリ結果は健闘した部類だと思うが、 その一方で馬がなかなか売れない事態に上場者の方々は苦しんでいた。
 このような状況下でも、 日高の中堅牧場が上場馬を完売していた。 そのお二人 (新冠橋本牧場さんと鎌田正嗣さん=以下敬称略) にお話をうかがった。

■新冠町 新冠橋本牧場 (上場馬5頭 全頭売却=1歳1頭・当歳4頭)
「例年はセリまでに庭先取引で何頭かは売るのですが、 今年はまったく駄目だったので、 セリでも厳しいかなと思っていました。 それが逆に作用して、 自分の牧場としては、 馬体を含めてそれなりのレベルの馬を上場できたと思っています。 実際に買っていただいた馬主さん (ノーザンファーム、 ビッグレッドファーム、 地方競馬馬主など) もプロの方が多く、 しっかり見ていただいたと思っています。
 価格はリザーブを思いきり下げていたし、 売れた馬の2頭は再上場なので、 当初のリザーブ価格以下の馬もいるけど、 男馬で種付料の3倍になれば良し、 と思ってセリに臨みました。
――セリに向けての営業は?
 牧場にきた馬主さんや調教師の先生には、 とにかく馬を見てくださいと、 しつこいくらい無理やり見せていました。 どこもやっているようなことですけど。
 近所の仲間には、 馬売りは厳しいから自己馬を競馬に使う牧場もあるけど、 自分は馬を売るという姿勢で臨みたいです。 競馬に使うのは、 リスクを考えるとやっぱり厳しいところもありますからね。
 今年のセリは厳しかったけど、 社台グループさんの馬も意外に安く買えるようになりました。 セールで競り負けて足を遠ざけていた馬主さんが来年は戻ってくるような気もします。 若い馬主さんだったら、 社台さんの馬を競り落として吉田照哉さんや勝己さんに笑顔で握手されたら本当にうれしく思いますよ。 そういう楽しさやわくわく感がセレクトセールにはありますね」

■浦河町 鎌田正嗣 (上場馬4頭 全頭売却=1歳2頭・当歳2頭)
「12年前からセレクトセールに上場しているけど、 最初の4、55年は苦戦していました。 当歳セールで馬を売るための修行期間でしたね。 体調を崩したり、 下痢気味になったりする当歳が多く、 さっぱり売れなかった。
 だんだん勉強して、 産まれが早く、 病気になったり体調を崩したりする可能性の低い仔をセリに出すようになっていきました。 免疫力の高さや丈夫さはやっぱり母親譲りだから、 同じ母親の仔を出すことも多いです。
――基礎牝馬ミユキカマダの系統の上場が多いようですが?
 牧場としての特色を出すには、 自分の商品ではこの牝系ですから、 これに賭けています。
 購買してくださった方々は、 セリ場で初めて上場馬に対面していただいた馬主さんばかりです。 1頭だけ上の兄弟が橋口先生にお世話になって走った馬がいて、 この馬は先生の縁もあって買っていただいたと思います。
――1歳馬の写真が良かったという評判でしたが?
 いや、 正直まだまだだと思います。 1歳馬は今回が初めての上場でもあり、 チェスナットファームさんに預けて、 セリに向けて仕上げてもらいました。
 セレクトセールにずっと参加していますが、 競走馬協会さんは以前から主取手数料を取って、 リザーブ価格まで売り手は必ず競り上げろと指導していますよね。 結局これは上場者に対し、 馬を適正価格で売るためにはお台を真剣に設定しろと言っていることであって、 私は協会のセリへの取り組みの真剣さを信頼してセリに参加しています」

 改めてお二人の上場馬をカタログで確認する。 父馬は社台スタリオンのサンデー系の人気種牡馬が多く、 牝馬は母馬が中央重賞勝ち馬であったり、 兄弟が中央の特別戦以上で勝っていたり、 可能性を感じさせる血統構成の仔が多い。 セレクトセールで売れる馬の 「定番」 を十分意識して上場されているようだ。
 セレクトセールに対する理解度が大変高いのも印象的で、 鎌田さんのリザーブ価格と主取手数料についてのお話は、 当協会にとっては有難いお言葉だった。 きちんとした馬づくりとセリに対する理解の高さが、 今回の好成績につながっている面は確実にあると思う。

遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。