H17.12.28


■種付料をめぐる風景−低迷する種株 遅延する支払い

 
11月の上旬、 近所の牧場主のKさんが事務所を訪れた。 この方は、 種牡馬の種付権利 (種株) 購入の名人である。 毎年、 競馬場での産駒の動きや新種牡馬の人気をきちんと分析し、 次の年に人気が高まると思われる種付権利を的確に先物買いする。 Kさんの選んだ種株は確実に値上がりし、 結果として生産費における種付料のコストを下げたうえ、 翌年には売り馬として人気種牡馬の仔を品揃えできるのだから、 この種牡馬選定は大変重要なのだ。 種付権利は、 馬産地では単に 「株」 とも呼ばれ、 人気によって価格の上下動も激しく、 以前は秋から暮れにかけて活発に取り引きされていた。
 当然そのKさんがいらしたので、 私は種株に話を振ったが、 Kさんはそっけない。 「種株はもう急いで買わない。 今買うのは、 本物の株だ」
 日経平均は1万5,000円を突破し、 個人投資家も交えて、 巷にはひさびさに大相場の雰囲気が漂い始めている。 その一方で、 馬産地の株のほうは、 種株名人のKさんもそっぽを向くほど活気がないのである。
 最大手の社台スタリオンの種付料の発表が12月上旬にあり、 各地の種牡馬事務局が主催する種牡馬シンジケート総会もほぼ同時期に行われて、 相次いで余勢種付料が発表される。 実際に種付の申し込みが活発化するのはこの時期以降のことになるのだが、 多頭数交配が可能な現在、 種牡馬の種付権利は、 種付料の用意ができれば、 いつでも、 誰でも手に入れることができる。 また、 受胎条件が主流の今日では種付料もほぼ固定化しており、 Kさんのような株名人が活躍する場面も激減した。 何よりも日高地区繋養の種牡馬の需要が全体としては減少しており、 先物買いの妙味がなくなっているのが実情なのだ。
 その一方で、 種付料の集金作業が年々ずれ込み、 この時期になると、 各種牡馬事務局は、 種付した生産者の方と深刻めいた話もしなければならなくなる。 受胎条件でつけた種付料の多くは、 支払が遅延すれば2〜3割増しの出産条件に変更される。 これは、 生産者の方にとってはあとあと大きな負担になることでもあるし、 種牡馬事務局としても、 なるべく早期に種付料を回収したい気持ちが強く、 何とか年内をめどにお支払いただけないかという話になるわけだ。
 もうひとつ付け加えれば、 来年無事に種付牝馬が出産したとしても、 仔馬が牝だったり、 何らかの欠点があったりすると、 さらに生産者の方の気持ちが萎えてしまう。 だからこそ、 双方にとって年内決済が好ましいのだが、 現実は年々厳しくなっていく一方だ。
 かつてのように生産馬がきちんと販売できて、 生産者の方の経営資金が潤沢な時代であれば、 10月末には1歳の最終馬代金が入金されて、 種付料の支払いもきちんとなされ、 メインバンクである農協への精算も滞りなく終了した。 年の瀬を迎え、 ゆとりを持って正月の準備もできたのだが、 そのサイクルが大きく崩れた今、 文字通り、 寒く厳しい師走になりつつある。
 馬産地の 「日経平均」 は、 まだ大底を打っていない。

遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。