H15.11.1





■災害を乗り越えて

 8月9日の台風10号による大雨は、日高地方、特に門別、新冠、平取の三町を襲い、町内至る所に未曾有の大被害をもたらした。
 私の住まいは、平取町の山あいの集落にあるのだが9日の午後、帰宅途中目にする二風谷ダムがほぼ満水状態となり、またダムに流れ込む支流河川も濁流となり、水位が堤防一杯に上がっているのを目の当たりにして、このままでは大変な災害になることを直感した。案の定、自宅周辺では、地元の消防団の皆さんが総出で警戒に当たっており、近所の貫気別川の堤防が間もなく決壊すると興奮気味に話していた。
  急ぎ娘を保育所に迎えに行き、念のため避難の準備をし、ますます強まる雨音を気にしながら、テレビの避難速報を注視していたのだが------。
 その日夜半10時から1時間で、私の住まいから10qほど離れた平取町旭地区で76ミリという猛烈な雨量を観測し、旭地区を上流域とする貫気別川と厚別川は氾濫した。翌朝、見慣れた貫気別の集落の一部が大水の中で孤立し、うち2棟の家屋は50メートルほど下流に流されていた。幸い我が家は大丈夫だったが、見知った人が被害に遭われた現場を目の当たりにするのは忍びなかった。川のほとりに集まった被災した皆さんは泣いていた。  
 
  時を同じくして、氾濫した厚別川流域の牧場地帯が、今回大きな被害を受けた。
 災害後の厚別川の流れは大きく変わり、今までなかった大きな河原が出現し、既存の道路を潰し、逆に川底が大きくえぐられて岩盤がむき出しとなり、渓谷になったところもある。かつての放牧地が川底となり、その一方で大量の土砂や流木が家屋や厩舎に流入し、無残な景観を作っていた。被害は河川流域だけではない。山々の谷筋からも大量の倒木や土砂が流れ出て、放牧地、採草地を至る所で潰していた。山が荒れているのか、放牧地や採草地に置き去りとなった流木の量はすさまじい。流域では17頭の馬が死亡、または行方不明となり、避難した馬は300頭を超えるという。

 しかし、その中にあっても、多くの牧場が再建に向けて動き出している。
 8月下旬に訪ねたAさんは、被災後すぐに復旧へ向けて動き出したという。
 「災害の後すぐに近所の育成施設を借りることにし、毎日管理馬を運んで調教しているよ。浦河のBTCと同じだよ。」とAさんは屈託ない。
 「町に掛け合って、捨て土をもらってきて、坂路をもう1本作ることにしたんだ。前は、土を買うにも、何千万もかかったけど、今回はタダだよ。町も土捨て場に困っていたから喜んでいたよ。昔からピンチはチャンスの始まりだっていうじゃないか。」
 Aさんの厩舎裏手のトレーニング施設は、全壊に近い状態だ。その状況下で、素早く調教施設のやりくりをし、さらにはこの災害をチャンスに変えようというのだから、Aさんの闘志あふれるバイタリティには、ただただ恐れ入る。お見舞いに訪ねた私の方が、逆に励まされてしまった次第だ。
 9月中旬に訪ねたBさんの牧場は、復旧工事の真っ最中だった。場内には工事関係者もたくさん入り、重機の騒音があたりに響き、もうもうと土埃が上がっていた。放牧地をほとんど失ったBさんは、近所に馬を預け、自宅や厩舎近辺の整理に汗を流す毎日だという。「まだ、(放牧地は土砂で)ズブズブの状態で,さっきもトラクターがはまり、工事の人に助けてもらったよ。当分は土建屋さんだな。今年中には、放牧地を整地し牧柵を巻いて、来年春には種蒔きをしたい。そして秋には馬を戻したいと思っているけどね。」と話すと、ランニングシャツ1枚になってBさんはトラクターに乗り込んだ。
 みんな、とにかく懸命だ。このがんばりがある限り、皆この苦難を乗り越えていけることと思う。災害に負けず復興に励む牧場の皆さんの姿は、パイオニア精神にあふれ、たくましく見えた。皆さんのがんばりを心底応援したい。

遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。