H14.2.25
■フリーリターン・ブーム

 2月になると、あちこちの牧場から出産の便りが聞こえてくるようになる。種牡馬の多頭数交配が日常化した現在、以前と比べて子馬の生まれる時期が早くなっているのも事実。生まれ落ちた子馬は、厳寒の凍てついた空気にさらされるわけだが、果たしてその気分はいかがなものだろうか。
 めまぐるしく変わる種牡馬界で、今年、新たなシステムが定着した。フリーリターン制度である。昨年度から社台スタリオンが一部の種牡馬についてこのシステムの導入を決定し、私の勤務する(株)サラブレッドブリーダーズクラブも会社所有の種牡馬などについては、すぐさま同様のシステムを取り入れたのだが、今回、社台スタリオンがサンデーサイレンスを除く全種牡馬を対象にしたうえ、日高各地の主要シンジケート種牡馬もこぞってこの制度を導入した関係で、馬産地はちょっとしたフリーリターン・ブームになっている。
 フリーリターン制度は当初、受胎条件で種付けし、期日までに種付料全額を支払った牝馬所有者を救済するシステムとして考えられた。つまり、種付料を支払った後で牝馬が流産したり死産した場合は、これまでならその損失は牝馬所有者が負担していたのだが、このシステムでは翌年もう一度同じ種牡馬を種付けできることになるので、牝馬所有者の危険は相当軽減されるのだ。
 同様にシンジケートの本株会員も、高額な払込金を支払って種付けしても、以前であれば、不受胎の場合はその救済手段はなかったのだが、今回、本株会員にもこの制度が導入されたことにより、翌年も再度種付けできるようになった。
 つまりフリーリターン制度とは牝馬所有者に対する種牡馬所有者サイドのサービスであり、ストレート支払が主流だった種付料が、受胎条件に移行し、そして今ではフリーリターン制度が席巻するといった具合に、繁殖牝馬所有者にとっては、この5、6年でその負担はかなり軽減されたわけである。
 先日、この制度について各地区の商社が集まり、その適用について打ち合せを行ったところ、その運用、解釈には商社間で微妙な温度差があることがわかった。私の会社では、フリーリターン規定の適用においては、翌年度にその種牡馬の種付料が値上げされた場合でも、その差額を徴収しないことを既にアナウンスしているが、実はこれを明確に打ち出しているのは、当社一社のみで、他の商社は、種付料の差額を徴収する構えだった。
 また当社では、シンジケート会員保護の観点から、会員がフリーリターンの権利を行使して繁殖牝馬に配合する場合は、前年の種付け牝馬からの他の牝馬への変更も認めているが、この制度の導入を検討している商社は一社だけであり、他社はフリーリターンの適用は同一牝馬に限るという原則を崩していない。
 
アフリートの平成14年の種付料は、申込金100万円、受胎確認後支払い500万円。500万円の部分がフリーリターン対象となる。
 当然ながら、繁殖牝馬の所有者はこの制度を大歓迎している。特に受胎条件より2割ほど割安で種付け権利を入手できるストレート支払だと、フリーリターン特約が付帯した種牡馬の場合は、前払いなのに事実上の出産条件ということになるのだ。ストレート支払はここ数年、敬遠されていたが、種牡馬によっては、昨年暮れから活発に取引がおこなわれたうえ株も値上がりし、品薄の株も出ている状況だ。その一方、フリーリターンを適用しない種牡馬株の人気が下落する兆候も現れている。
 種牡馬所有者サイドの顧客サービスとして始まったフリーリターン制度について、会議では次のような発言もあった。
 「近いうちにほとんどの種牡馬を出産条件にせざるを得なくなるでしょう。問題は、血統登録が一歳末まで可能な点で、出産条件だと、場合によっては、種付けから種付料の回収まで、2年半もかかってしまうことですね。」
 これは伝聞だが、オーストラリアでは、既に産駒販売条件で種付けを始めた種牡馬もあるそうで、それがまた人気を集めているらしい。
 いずれにせよ、わが国の種牡馬ビジネスをめぐる状況は年々大きく様変わりしている。生産界の「構造改革」は、まだ道半ばではあるが、フリーリターン制度とその後に垣間見える種牡馬ビジネスの未来は優勝劣敗、体力勝負の大競争時代であることだけは間違いない。
遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。