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■セレクトセールが終了して

 7月7日、8日の両日にわたって開催されたセレクトセールは、過去最高の74億円を超える売り上げと、76.4%もの落札率を記録して無事終了した。サンデーサイレンスのラストクロップが多数上場されるといった要因があったとはいえ、昨今の経済情勢を考えれば、これほどの好成績を上げるとは誰一人として予想できなかったことだった。そのセール成績の詳細については他に譲るとして、今一度セレクトセールの意義と成功の要因について考えてみたい。
98年の第1回開催から回を重ねて今年が6回目を迎えた当セールの基本コンセプトは、「わが国最良質の当歳馬を、公開市場において誰でも自由に手に入れることが出来る。」というものだ。
日本での競走馬の売買は、お付き合いのあるお客様と、直接相対して取り引きするものがほとんどであり、コネクションがなければ良質の商品を手に入れることは大変難しく、また競走馬という、大変高額である一方で、商品としての価値(競走馬としての能力)の見極めが難しい生き物が取引の主体であり、庭先の取引では、しばしばトラブルも生じ易い。
それを公の市場において商品を公開し、自由に品定めをしていただいた上で、競り売りを行うのであれば、資力、財力があればという条件が付帯するものの、誰もが望みの品を購入する機会が与えられており、また市場という公の取引において値が決せられるのだから、価格には普遍性、妥当性が与えられることにもなる。(もちろん、競馬の性質上、取引馬の競馬成績が不振であれば、結果的に高い買い物だったことも当然あり得る訳だが。)
セレクトセールでは、その公の市場に、最良質の商品を提供するのであるから、結果が伴ってくるのもある種当然ではある。実際にセール取引馬の活躍も著しい。競馬デビューを果たした3世代の中から、マンハッタンカフェ、ビリーヴ、ビッグテースト、ウインクリューガー、ユートピアの5頭のG1ホースが出現し、Gレース勝ち馬18頭、Gレース勝利数合計33勝と、瞬く間に素晴らしい実績を積み重ねてきた。これらは、セールの成功に社運をかけて良質馬を毎年提供している社台グループを始め、販売者である各生産牧場のセールに対する考え方の大きな変化にある。

これら一連の流れを図式化すると、おおむね次のようになる。

最上級の良質馬を公開市場で提供ビッグセールの開催取引馬が競馬で活躍

ビッグセールの開催(リピーターの増加)最上級の良質馬の上場増加

最上級の良質馬を公開市場で提供

つまりは、回を重ねるごとに、おおもとの基本コンセプトが、購買者、販売者双方にきちんと理解、支持されており、その結果がセレクトセール出身馬の実績となって現れている。あとは、上場馬の質を落とさない、すなわち、良質馬をセールに提供し続けること、これがセールを成功させ続けるシンプルだが最も重要なポイントとなってくる。
この基本コンセプトをきちんと理解した上で、次は、セールのデコレーション作業となる。たくさんのお客様にお越しいただくには何をなすべきか。セール会場でお客様に気持ちよく過ごしていただくためには何をすべきか等々、様々な観点からセールの運営をつぶさに検討し、実際に実務に当たっていくこととなる。その基本姿勢は、セリに参加されるお客様の視点に立ち、いかに楽しくセールに参加していただくかに尽きる。
毎年、セールの記憶が生々しい7月下旬に、実務者が集まってセールの反省会を開催している。会場業務、鑑定業務、受付業務など部門ごとの仕事の内容をまとめたレジュメをたたき台にして、各実務担当者が様々な観点から意見を出し合い、次年度へ向けて課題を明らかにし、可能な限り改善を加えていく作業を繰り返している。
私は、セレクトセールの強みの一つに、この作業がきちんとなされているといったことがあると思う。正直に言えば、セールの規模は世界レベルといえるものの、年に2日だけの開催であるし、実務スタッフは決してこの道のプロではなく、普段は日々牧場の実務に携わっているホースマンなのだ。だからこそ、セール終了後、皆の記憶が鮮明なうちに、セール運営上の問題点を明らかにし、来年度に備えるといった作業が大変重要になるし、その結果として実務スタッフのセールへの理解も深まり、それが経験不足を補う大きな武器になるのだと思う。毎年、セールの運営面において、反省会を踏まえたマイナーチェンジを繰り返しており、その結果、回を重ねるごと体制がしっかりしたものになってきている。その努力を今後も続けていきたい。
今、馬産を取り巻く状況は大変厳しい。現にHBAのサマーセール(サラ1歳市場;7月28日から3日間開催)は、落札率が20%に満たない結果となり、惨憺たる状況である。この先、馬産地日高はいったいどうなるのだろうかという不安が沸々とわき上がってくる。馬産に限らず、経済の停滞が続く中では、皆が一様に成功することなどあり得ない世の中になった。生き残るのも命がけといった大変厳しい時代が目前に迫っている。
そのような時代にあっても、上にかかげた理念を現実化し、成功を収め続けているセレクトセールではあるが、私自身、現状に満足することなく危機感を持って今後もセール運営に携わっていきたいと思う。これが実感である。

遠藤 幹

※このコラムは、(社)日本競走馬協会の会報に掲載されている「日高便り」を、協会の許可を得て掲載したものです。